パルナソスホール(姫路市立姫路高等学校音楽ホール)

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パルナソスホールブログ

2023年2月1日 更新

歌い継がれる「交響詩ひめじ」

一度でも歌ったことのある小学生以上を対象に、2018年度に始まりました。池辺晋一郎さんが作曲当時のエピソードなど作品に込めた思いを語るほか、歌うときのポイントをレクチャーします。

写真:「交響詩ひめじ」公開合唱ワークショップの様子

「交響詩ひめじ」公開合唱ワークショップ

昨年12月4日、混声合唱組曲「ひめじ」第一章「姫路のあけぼの」をテーマに、4回目となるワークショップが開催されました。姫路市の合唱団「響」のメンバーや、福崎西中学校の合唱部員、一般の方も含めた24名が参加。温かい拍手で迎えられた池辺さんは、「交響詩ひめじ」との出会いから話し始めました。

——それまで姫路とはなんの縁もありませんでしたが、市制100周年ということで依頼がありました。川口汐子さんの詩をいただいて、その詩がすばらしくて、詩に触発されて書いたように覚えています。読むだけで、自然に音楽があふれてきた。詩を熟読したら、この曲ができた、そういう感じです。

第一章には広峯、夢前など姫路の地名が出てきます。当時は姫路のことを知らなかったのですが、地名に心惹かれたことを覚えています。

 

 

第一章がどのような構成になっているのか、どのように転調しているのか、なぜここで転調するのか。楽譜の一瞬、一瞬に、作曲家の工夫やアイデアが含まれているということを、ビートルズの「イエスタデイ」や、映画「シェルブールの雨傘」テーマ曲を例に挙げ、ピアノを弾きながら解説していきます。

 

——第一章は鏡のかたちをしています。全部で7節あるのですが、1、2、3、真ん中があって3、2、1と戻ってきます。また、何度か転調しています。調っていうのは曲の性格、キャラクターをつくるもので、単調さも回避できます。

これまで200から300ほどの合唱曲を書いてきました。いつも詩の内容に即して書いています。詩の世界にどれだけ踏み込めるかが大事。詩が輝くところで、輝きのある音や調を選ぶんです。

 

 

レッスンでは「音に起伏をつくらずに」「この節は明るく活動的に」「音を弱くするのではなく、遠くへ届かせるように」など、細やかに指示を出します。参加者の歌声がどんどん変化していきます。

 

——詩の意味を理解し、意識して歌うことが大切です。意識して歌うと伝わります。合唱はそれができる演奏形態ですし、そこに音楽のおもしろさがあります。「伝わる」ということが大事で、なぜなら、芸術というものは、伝わったときに成立するからです。

そういう意味では、作曲は、楽譜を書くことではないんです。楽譜は伝達手段であって、頭のなかにあるものを楽譜に移すのは、単なる写譜です。合唱も、いい気持ちで歌うのは芸術ではなくて、誰かに聴いてもらって初めて芸術になる。いくら良い演奏でも、誰も聴いていなければ芸術ではないのです。

 

 

1時間あまりのレクチャーを終え、池辺さんの指揮で、第一章を通して歌います。演奏を聞いていると、連なる山並みを背景にどこまでも広がる平野、美しい山や海、清らかな川の流れが目の前に見えているような気持ちになりました。

 

——音楽をやっていると、音符に羽根が生えて、飛んでいくような気がします。飛んでいって、誰かの耳に入り、心に入っていく。合唱なら、声に羽根が生えて、心に飛んでいくんですね。また、明るさや重さ、距離といった明確な単位はない、けれどもそれが伝わる。その不思議さのなかに身を置くことが楽しいし、それを信じることが音楽の素敵さ、おもしろさなんです。

 

 

写真:魚住さん(左)と中村さん(右) (いずれも合唱団「響」に所属)

ワークショップを終えて

魚住知里さん(ソプラノ)

10年以上歌っていて、合唱コンクールでも毎年歌っている曲ですが、きょうは新しいことをたくさん知りました。池辺さんご自身から作曲の際の考えや熱い思いを聞き、これからは作品の中身をもっと意識して歌えたらいいなと思います。

 

中村伊織さん(バス)

20年以上歌ってきて、なにも見ずに歌えると思っていたので、ひさしぶりに楽譜を見て「こんなところにフォルテがある!」とびっくり。慣れは怖いなあと反省しました。歌う人間として、詩の意味や作曲者の意思を伝えられるような演奏をめざします。

 

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