パルナソスホールで2019年3月から開催されている「オルガンシリーズ」が、この4月で20回を迎えます。
シリーズを企画しているホールオルガニストの長田真実さんに、これまでの歩みとこれからについて聞きました。
—— なぜ「オルガンシリーズ」を。
さまざまなオルガンの世界にふれてもらいたいと考えたからです。J.S.バッハの「トッカータとフーガ」のような、「これぞオルガン!」という作品をがっつり聴いていただくだけでなく、いろんな角度からオルガンの魅力を感じてもらいたいと考えました。
1年間でオルガンソロを1回、オルガンと他楽器の共演で2回、計3回の開催を目標にしています。オルガンが好きな方や「この曲が聴きたい」という方はもちろん、幅広い層のみなさんにお届けできればと思っています。
—— さまざまな楽器とコラボレーションしています。
これまでヴァイオリンやファゴットのほか、合唱や歌といった人の声との共演もありました。アンケートに「こんな世界があったんですね」「オルガンだとこんな音楽になるんですね」と書いてくださるお客さまが多く、新しい世界にふれてくださったのかな、オルガンに対するイメージが少し変わったのかな、といつもうれしく思っています。
ホールスタッフによると、「長田さんが紹介するオルガニストの演奏を聴いてみたい」「長田さんが紹介する作品を聴いてみたい」と、毎回お越しくださる方も増えているそうです。ホールオルガニストとしてほんとうにありがたく、幸せなことだと感じています。
—— これまでのシリーズで、特に印象が強い回は。
第3回の「音楽絵巻『竹取物語』」は、日本のものをやってみたいと企画しました。ドイツで1994年に初演されて以来、40回以上再演されている松岡貴史さんの作品です。姫路らしさも加えたいと考え、思いついたのが「明珍火箸」でした。姫路の伝統工芸品であり、音を奏でることができます。そこで、作曲家の松岡みち子さんにオープニング用の短い作品を書き下ろしていただきました。
「姫路の秋 オルガンのための新作」というタイトルどおり、祭がモチーフです。横笛、笙、太鼓の音、そして「ヨーイヤサー」のかけ声もオルガンで表現。『竹取物語』への導入としても、とてもよい作品になりました。
写真:Vol.3「音楽絵巻『竹取物語』」(2019年9月)
写真:明珍火箸を打楽器に仕上げた「明潤琴(みょうじゅんきん)」(書写の里・美術工芸館蔵)
—— 打楽器とのコラボレーションも。
第7回では打楽器奏者の牧野美沙さんをお迎えしました。打楽器はオルガンにはない音色をもっていて、スパイスやインパクトを加えてくれます。ぜひ一度、ご一緒したいと考えていました。
同じ日に子ども向けの「打楽器とあそぼう♪ 0歳からのクリスマスコンサート」も開催し、打楽器は見ても楽しいし聴いても楽しくて、大人も子どもも楽しめるんだなあ、と実感。「子どもたちに楽しんでオルガンを聴いてもらえるような企画に取り組んでみたい」と強く思ったきっかけの回でもあります。
写真:Vol.7「打楽器とオルガンで贈るクリスマス」(2020年12月)
—— 第17回からは3回にわたってバッハを特集しました。
バッハの人生を時代ごとに紹介するレクチャーコンサートを開催しました。サブタイトルは「オルガニストの軌跡」。バッハは偉大な作曲家であると同時に、生涯をオルガニストとして生きた人物です。大作のほか、その脇を埋める珠玉の名曲たちも紹介できました。いろんなメディアに取り上げていただき、遠方からのお客さまや、初めてお越しくださる方も多かった印象です。
——「オルガンシリーズ」のこれからは。
第9回で東京藝術大学教授の廣江理枝さんをお招きし、演奏会と、マスタークラスも開講しました。若い方に育ってほしいという願いがあるので、さまざまなオルガニストをお呼びして、またマスタークラスができればと思っています。
個人的には打楽器とのコラボをまたやりたいですし、協奏曲も続けていきたい。欲を言えば、オーケストラと共演してみたいです。バロック時代と比べて、時代が下ると大編成のオーケストラと奏でる協奏曲が増えてきます。オルガンは「ひとりオーケストラ」ができるくらい、いろんな楽器の音色が出せます。オーケストラが2つあるような、そんな演奏をいつかご披露できればいいなと夢見ています。
—— 記念すべき第20回は「協奏曲」ですね。
オルガンはソロのイメージが強いと思うのですが、本来は合奏の中心にいる楽器です。ヨーロッパではオルガン+複数の楽器による演奏会が日常的に開かれていますが、日本ではとても少なく、バロック時代の膨大なレパートリーもほとんど知られていません。
大平(夫でオルガニストの大平健介さん)は、複数の人たちとの合奏に数多く取り組んできた「アンサンブルに長けた人」です。彼の中にも「オルガンの魅力を多角的に伝えたい」という同じ思いがあり、二人のライフワークとして取り組みたい分野の一つが協奏曲です。第10回、第16回は弦楽器のみでしたが、今回は初めて管楽器のオーボエが加わります。どうぞお楽しみに。
写真:Vol.16「オルガン協奏曲の祭典」(2024年1月)
Profile/長田真実(Mami Nagata)
東京藝術大学音楽学部器楽科オルガン専攻及び同大学大学院を修了。シュトゥットガルト音楽演劇大学に留学し、帰国後もドイツ国内及び日本各地で演奏活動を展開。現在、パルナソスホールオルガニストを務める。