パルナソスホール(姫路市立姫路高等学校音楽ホール)

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パルナソスホールブログ

2025年2月3日 更新

指揮者 大塚直哉さんに聞く オラトリオ《メサイア》

姫路市文化国際交流財団設立20周年を記念して2009年1月に第1回が上演されたオラトリオ「メサイア」。第6回公演が今年3月、パルナソスホールで開催されます。

「ハレルヤ・コーラス」で知られるヘンデルの最高傑作で、台本の序文に「いざ、大いなることを歌おう。」と記されているとおり、イエス・キリストの生涯における大きな出来事「降誕」「受難」「復活」をドラマティックに描いています。

作品の内容や聴きどころについて、指揮を務める大塚直哉さんに聞きました。

写真:メサイア 2019年3月24日開催

いざ、大いなることを歌おう。 オラトリオ《メサイア》

——どんな作品ですか。

18世紀の中頃、いわゆる「バロック時代」の終わり頃に書かれた名作の一つです。イギリスの著述家ジェネンズによる台本に、ヘンデルが曲を付けました。宗教上の物語をやさしく伝える「オラトリオ」という形式ですが、礼拝用ではなく劇場で奏でられるものとして作られています。

現在に至るまで廃れることなく、何度も繰り返し演奏されてきました。チャリティーコンサートの演目の一つとしてヘンデル自身が上演したこともあり、社会的役割を果たしてきた作品ともいえます。

 

——およそ3時間という大作です。

バッハの「マタイ受難曲」は聖書の言葉と別の歌詞が混じっていますが、「メサイア」は聖書に記されている言葉のみで構成されています。聖書の箇所をランダムに並べ替えているのですが、それが見事にストーリーになっているというか、うまい具合に物語が編まれていると感じます。

休憩を入れて3時間という長い作品ですので、カットして演奏されることもあります。しかしそれでは意味が欠けるというか薄まるというか……。ですから今回も全曲を演奏します。

 

写真:直筆の楽譜

 

——ソリストと合唱団が交互に歌い進行していきます。

ヘンデルの全作品のなかでも特別にすばらしい曲がこの作品の中にいくつも入っています。ソロの楽章は3名のプロのソリストと8名の公募ソリストが交代で歌い、合唱では「天使の合唱」とも称される美しい「ハレルヤ・コーラス」が聴きどころの一つです。

公募ソリストのうち3名は姫路出身で、一般公募の合唱団も質が高い。第1回から指揮を務めていますが、毎回、姫路の文化の層の厚さを実感しています。

写真:2013年度メサイア合唱練習の風景

 

——「パルナソス・メサイア合奏団」の中にはパルナソスホールの講座修了生も。

プロの合奏団に、パルナソスホールのチェンバロ講座修了生が「通奏低音奏者」として加わっています。通奏低音をオルガンやチェンバロで弾くというのは、簡単に言うと、即興です。楽譜の低音部にシンプルなメロディが書いてあり、音符の下に数字が書き込んであって、その数字をもとに即興で伴奏をつけていきます。

「チェンバロ講座」の講師を以前から務めていますので、このたび修了生らと共演できるのはうれしいですし、これができる人がパルナソスホールで育っているのは本当にすばらしい。オルガンの長田真実さんも「オルガン講座」がきっかけでホールオルガニストになられたと聞いています。習うだけでなく、成果を持ち寄り、演奏会というかたちで実践できる機会があるのは良いことだと思います。

 

——6年ぶりの、第6回公演です。

バロック音楽は当時の楽器、いわゆる古楽器がないと再現できません。パルナソスホールにパイプオルガン、チェンバロ、ポジティフオルガンがあること、講座修了生を含めそれらを弾ける人がいることが、6回も続く理由の一つだと思います。

初めの頃は「とにかく破綻なく最後まで演奏しよう」という感じでした。毎回、演奏会が終わるたびに「もうちょっとできたはず」「もっと良くなるはず」とみんなが思うんですよね。今回はヘンデルのハーモニーの美しさをより引き出せるように、というのが目標です。

 

——280年前の作品を、現代に上演する意義とは。

「古いものをわざわざやらなくても」と思われるかもしれませんが、“フリーズドライ”のように、いまの演奏家が演奏すると、いまの音楽になるんですよね。良い作品は時代を超えて、現代のわたしたちに語りかけてきます。「メサイア」は特にメッセージ性が濃い作品ですので、当時聴いた人々とは違うものかもしれませんが、現代の人々が受け取るものがきっとあるはずだと思っています。

響きの良いホールで聴くバロック音楽は格別です。ぜひ会場で、この傑作のもつ力を体感してみてください。

 

Profile/大塚直哉(Naoya Otsuka)

東京藝術大学大学院チェンバロ専攻、アムステルダム音楽院チェンバロ科およびオルガン科修了。チェンバロ奏者として活躍するほか、これらの楽器に初めてふれる人のためのワークショップを各地で行っている。東京藝術大学教授、NHKFM「古楽の楽しみ」案内役。

 

 

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