教会オルガニスト 大平健介さんのインタビュー第2回です。(第1回「オルガンと出会い、音楽を志す」はこちらから)
超濃厚な学生時代を経て、いよいよ渡独。大平さんのフットワークの軽さはドイツでも変わりませんでした。「幸せな10年間」、その日々とは……。
音楽を志す人はドイツに行くものだと高等部の頃からなぜかずっと思っていて、早く行きたいと思っていた。けれど、このままではとても海外では通用しないだろうと学部の頃に気づき、大学院に進みました。
演奏技術を磨き、留学準備を進め、ドイツからのDAAD給費留学生として2010年秋にドイツへ渡りました。最初の2カ月は語学研修。月曜から金曜まで、みっちりドイツ語を学び、ヴュルツブルク音楽大学オルガン科へ。「そうだよ、これなんだよ」という喜びがあり、大学に入ってからの数年分を取り戻すかのように、オルガンに没頭していきました。
ふと「あれ、カンタータがない…」と。藝大でバッハ・カンタータ・クラブに所属していて、バッハのアンサンブルが通奏低音のように常に身近にあった。なんとも心もとなくて、「ヴュルツブルク・バッハ・カンタータクラブ」を新しく立ち上げました。
合唱とオーケストラの総勢50名。メンバーはドイツ人、練習はもちろんドイツ語で、年に4回、公演を行いました。アジア人の僕が音楽監督と指揮を務めているとあって、街からインタビューを受けたり、新聞に取り上げられたこともありました。
▶ヴュルツブルク・バッハ・カンタータクラブの動画「J.S.バッハ:カンタータ『イエスよ、汝わが魂を』BWV78」
マイスター課程、教会音楽科を修了し、南ドイツ・シュトゥットガルトにあるシュティフツ教会のオルガニスト、カイ・ヨハンセンさんのアシスタントに認められました。その教会のオルガンは81ストップを備える大オルガンで、規模としては東京のサントリーホールのオルガンよりも大きいものです。
2016年のIONニュルンベルク国際オルガンコンクールで優勝し、ヨーロッパ各地を巡るコンサートツアーを経て、2018年にシュティフツ教会専属オルガニストに就任しました。
僕のまわりには期限付きで留学する人が多かったのですが、僕は可能な限り、ドイツで生活したいと思っていた。最初の5年は勉強、それからの5年は仕事も得られ、音楽とともにのびのびと過ごせた幸せな10年間でした。
シュティフツ教会専属オルガニストに就任後は、仕事として、音楽家として毎日教会に通う生活でした。ドイツの教会音楽家の生活がどのように成り立っているのか、音楽が街の人々にどのように愛されているのか、または、ひとつの組織として、運営側はどのような取り組みを行っているのかなどについて、みっちりと取り組むことができた。これまでで最も充実した時間でした。
▲ドイツの主教会のひとつシュティフツ教会で、教会オルガニストとして働く大平健介さんのドキュメンタリー動画。(監督・撮影・編集:小倉裕基さん 2019年)
この2年間でCDを3枚制作しました。いずれもデュオで、ファゴットとオルガン、ホルンとオルガン、声楽とオルガン。オルガンは息の長さやピッチを合わせていくことができる楽器なので、「オルガンはこうあるべき」という概念を良い意味で打ち砕く、オルガンの可能性を世の中に発表するシリーズとして、これからも続けていきたいと思っています。まだお手にされていない方は、ぜひ大平まで直接お問い合わせください♪(笑)
(2021年3月@パルナソスホール 取材・文:鷹居美紀)
写真1枚目:ヴュルツブルク音大時代。ヴァルタースハウゼンにあるトローストオルガンにて。
写真2枚目:ヴュルツブルク・バッハ・カンタータクラブでは音楽監督と指揮を務めた。
写真3枚目:ヴュルツブルク・バッハ・カンタータクラブ集合写真。右端が大平さん。
写真4枚目:カイ・ヨハンセンさんと大平さん。
写真5枚目:IONニュルンベルク国際コンクール優勝。
写真6枚目:シュティフツ教会での礼拝。
次回「教会オルガニストとして」へつづく・・・